変化を創造した事例として、つばさホールディングス株式会社および株式会社カーライフサービス多摩車両の代表取締役社長の猪股浩行さんへのインタビュー、ご紹介します。
わが社の創業は、終戦の翌々月にあたる昭和20年10月。鈑金修理や車両整備、新車・中古車販売を展開する歴史ある会社です。
私が当社の代表取締役に就任したのは2016年8月のことで、それ以来、事業再生に近いかたちで経営の再建に取り組んできました。なぜ再建が必要になったかといえば、高度成長期の会社のあり方から脱却できなかったということに尽きると思います。日本経済の右肩上がりの成長と、モータリゼーションの進展という強力な「追い風」を受けて当社は発展を続けてきたわけですが、これらの「追い風」はとうの昔に止んでいました。
このように経営環境が大きく変化したのにもかかわらず、古くから続く体制を変えられず、人材の新陳代謝も進められなかった。ビジネスを抜本的に変革して新たな市場を開拓しようという気運が高まることもなく、どん詰まりの状況に陥っていたんです。
実際、私が当社にきた頃のお客さまといえば、昔から馴染みのご高齢の方ばかりで、しかも、彼らの満足度さえ非常に低い状態でしたからね。
こうした状況から復活を遂げるには、自社の強みを見極めたうえで、徹底的に磨き上げ、地域の皆さまに必要とされる会社へと進化を遂げるほかありませんでした。その中核をつくりあげるべく、理念の策定に力を入れたのです。
理念とはいわば「北極星」のようなものです。理念があるからこそ、考え方も行動の仕方も異なるさまざまなメンバーが目標の実現に向けて、迷うことなく突き進んでいける。理念に照らし合わせることによって、メンバー一人ひとりが自らの現在位置を確かめることができる。
理念というブレない軸を持つことが必要だったのです。実際には2018年の4月に6人の社員からなるプロジェクトチームをつくり、彼らを中心に理念の策定に向けた取り組みを進めてもらいました。
いやいや、当初は積極的なメンバーなどいませんでしたよ。理念の策定という目的が見えづらい課題よりも、目の前にある仕事をこなすのが先決と考えるのは当然のことですし、それだけで精一杯だったのだと思います。こうした葛藤は、みんなが抱えていたはずです。ただ、入江さんの指導のもと、「自分たちは何がしたいのか」「どのような会社でありたいのか」といったテーマについてみんなで議論するうちに、理念を策定する作業を「自分事」として捉えられるようになっていきました。
「こんなこと、今まで考えたことないよね」「難しいよね」とぼやきながらプロセスを深めていくうちに少しずつ積極的になっていった印象です。こうした試行錯誤を経て、プロジェクトの発足から半年後の2018年10月、新たな理念「~すべてはお客様の笑顔のために~」を完成させることができました。
理念の策定から約2年が経過した今日、ゆっくりではありますが、確実に浸透しつつあるという手応えはありますね。理念の策定したときに「5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)」を本格的に導入したことや、朝礼で理念を唱和するようにしたことも大きく寄与していると思います。
もっとも、理念を策定したからといって、売上や利益がすぐに上がるわけではありませんし、社員の意識や行動の変革が大きく変わったかといえば、そんなことはありません。
しかしながら、理念という基軸ができたことで、「さっきの対応は理念からは外れてるよね」とか「こういう仕事の仕方は私たちらしくないよね」といった会話ができるようになったのは非常に大きいと思っています。また、採用面でも良い結果が出始めています。当社は長い歴史を持つ反面、人の出入りの少ない会社だったのですが、近年は理念に共感して入社を志望する人が増えてきました。理念の存在が人の新陳代謝を促すとともに、理想の人材を採用するチャンスの拡大に寄与しているのは間違いないと思います。
そうですね。実際、部長を務めていた古参社員が「新しい理念にはどうしてもなじめない。そうした考え方のもとで仕事はできない」といって、理念の策定直後に退職するという出来事もありました。
でも、これは必ずしも悪いことではないと思うんですよね。大きな会社であれば「お金をいただくのだから、割に合わないことや嫌なことも我慢してやらなければいけない。仕事とはそういうものだ」という発想が成り立つのかもしれませんが、私たちのような中小企業では、皆がハッピーでなければ、仕事に対するモチベーションは上がりませんし、いい仕事ができるはずがありません。
社員一人ひとりが理念に対して共感を寄せる。わが社の理念に共感するお客さまが、新車を購入したり、自動車の整備を依頼したりと、当社のサービスを利用してくださる。このように一つの理念のもと、経営陣から社員、お客さまが互いにハッピーになれる関係を構築することが大切だと思うのです。
日本企業の99%は中小企業です。
その意味で、中小企業の社員が生き生きと働き、明るい未来を描けるようにならなければ、この国の発展はないと思います。
私たちは多摩という、東京の一部でありながらも地方都市としての顔をもつエリアを拠点にして、全国の中小企業の「道標」になるような会社をつくっていきたい。
地域のなかでイニシアティブを発揮しながら、自分の考えや思いを一つひとつ形にしていくことで、全国の中小企業に勇気を与えられるような存在になりたい。
そのためにも、グループ会社との一体感を深め、シナジーを生み出しながら、中小企業だからこそできるビジネスを展開していきたいと思っています。
もっとも、時代が急激に変化するなかで、中小企業はますます余裕がなくなっているのも確か。
目先の課題をこなすので精一杯で、理念や策定や社内への浸透、社員の意識改革といった課題に腰を据えて取り組むことは、これまで以上に難しくなっているといわざるをえないでしょう。
だからこそ、入江さんにはさらに活躍してほしいのです。中小企業で働く人々が笑顔を輝かせながら活躍できるよう、これからも力強いサポートを続けてほしいと願っています。
いかがでしょうか。理念浸透で会社が変わる。その胎動を本事例から感じていただければ幸いです。
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